モリンガから未知の粒子を!(後編)

モリンガから未知の粒子を!(後編)

「研究のために、モリンガの葉を入手したいんです・・・」
きっかけは、とある展示会のARINGA MORINGAブースに訪れた板倉先生の一言。研究を開始した当初はモリンガについての知識はゼロだったのにも関わらず、フィリピンで共同研究をしているの研究者からその存在を教えられてから、モリンガに恋してしまったご様子。先生にとって、何がそんなに魅力的だったのか・・・?「薬剤学」でのモリンガの活躍、まだ見ぬ世界に可能性を感じてワクワクが止まりません!(研究員MIKI)


モリンガを使った粒子の研究はどのように進められているのですか?

 第一段階として大事なのは、「本当に粒子が採れるのか」「どのくらいの量が取れるのか」「生と乾燥で違うのか」「葉と茎で違うのか」といった基本的なところの確認です。
モリンガは、生の状態と乾燥状態の葉を、茎のついた状態でご提供いただきましたので、葉と茎を分ける作業から始めました。実はこの作業が結構大変で・・・研究室の学生が頑張って作業してくれました。加えてパウダーもいただいたので、粉末からも粒子が採れるのかを合わせて検討しました。
次に、取得できた粒子にはどんな特性があるのかを評価します。
モリンガについてはもともと抗酸化活性が高いのが特徴なので、ナノ粒子にもその活性が期待されます。活性の高い粒子を得るためにはどの状態のどの部位が良いか検討するのですが、どのような性質を持った粒子が得られるかは、やってみるまで分からないというワクワク感があります。

ーモリンガの粒子で期待する分野はどんなものがありますか?

まず、モリンガ由来ナノ粒子では活性酸素種に対する消去能が高いことや、抗がん活性があることがわかってきました。活性酸素種は様々な疾患や老化の原因になることが知られています。これは例えば、紫外線により皮膚で活性酸素種が生じ、炎症やシミ・しわの原因になります。
また、肝臓でも活性酸素種が過剰に発生すると肝炎や肝障害の進行に関与すると報告されていて、酸化ストレスをきっかけに起こる疾患も多いです。
植物由来は抗酸化力が高く、粒子そのものが活性酸素種を消去する能力を持つという特徴があります。植物は紫外線・高温・乾燥などのストレスに暴露されている状態にあって、そのストレスに対抗するために抗酸化成分や抗酸化酵素を豊富に作ります。
同じ植物であっても、育った土地の気候や土壌で成分が変わるので、植物の種類によって活性が全く違っていて、抗酸化が高いもの、弱いものなど様々です。そういうバラエティの広さも、植物由来ナノ粒子の魅力であり、興味深いですよね。

今後の研究はどのように進めるのですか?

今の段階では、まず化粧品分野に向けて研究を進めていくのが良いと考えています。特に美容・健康分野では動物由来成分を避ける流れが強まっていて、そのなかで植物由来素材への注目は確実に高まっています。
ただし、抗酸化作用が高いだけでは化粧品として成立しません。
本当に人の細胞に効果があるのかどうかを証明するために・・・
 ・皮膚にどれだけ浸透するのか
 ・標的細胞にどのくらい取り込まれるのか
 ・取り込まれたあと細胞の中でどう振る舞うのか
といった評価が必要になります。
これまでモリンガの葉の安定した供給がネックだったのですが、ARINGA MORINGAとの出会いでその問題がクリアになりつつあります。材料が手に入る環境が整ってきて、研究のメインテーマとして大きく進められるイメージが一気に広がりました。
最近は「モリンガに恋しているみたい」と言われるくらい、わくわくしています(笑)。

ーモリンガに期待することはありますか?

期待は大きいです。沖縄の畑にも足を運んでみたいです。抗酸化以外にもまだ知られていない活性を見つけられる可能性もあります。細胞外小胞にはマイクロRNAなどの核酸も入っている可能性があるので、健康や疾患に関する遺伝子発現を制御するような作用も期待できます。そうした未知の成分も含めて多面的な可能性が興味深いです。
モリンガは分からないことだらけだから面白くて、知らない事を解明して、どうやって研究成果につなげていくか日々考えながら進めています。
有効な作用を持つ粒子を見つけられたら、それを必要な場所に届け、ちゃんと効くための工夫をすることが私たちの研究です。モリンガ由来の粒子を製剤として社会に届けることも夢ではないかもしれません。

【プロフィール】

東京理科大学薬学部薬学科 助教  
板倉 祥子(いたくら・しょうこ)

京都薬科大学にて薬学を専攻。その後、製薬メーカーや大学の研究所にて研究員として従事するほか、日本学術振興会特別研究の実績を経て、2023年より東京理科大学にて現職。日本薬学会や日本薬剤学会など各学会に所属のほか、日本ハーブ療法研究会において世話人も務めている。